社会のために何かしたい。
その想いは本物なのに、「どこに寄附すればいいかわからない」「法人を作るほどではない」と考えて、立ち止まってしまう。そんな方は少なくありません。
2026年4月1日、そうした壁を乗り越えるための新しい選択肢として、公益信託制度が大きく見直されました。
内閣府は、新制度について、委託者の想いを生かした民間の公益活動が、より身近で活発に広がることを目指すものだと説明しています。
約100年ぶりの大改正ともいわれ、担い手、財産、活動内容、認可・監督の仕組みまで、制度の中身が大きく変わりました。 (内閣府)
この制度は、一部の大企業や特別な資産家だけのものではありません。地域への恩返しを考える経営者、次世代に何かを残したい個人、相続や承継をきっかけに社会貢献を考える人にとっても、十分に現実味のある制度になってきています。寄附と法人設立の“ちょうど中間”にある、実務的な選択肢として注目される理由はそこにあります。
■ そもそも公益信託とは何か
公益信託をひと言でいえば、財産の使い道をあらかじめ決め、その想いを継続的に実現するための仕組みです。
内閣府の説明では、契約または遺言によって委託者から受託者に託された財産を用い、受託者が委託者の想いに沿った公益活動を継続的に行う仕組みとされています。
登場するのは主に3者です。
財産を託す委託者、
その財産を管理・運用・処分しながら公益事務を行う受託者、
そして、その運営が適正に行われているかを監督する信託管理人です。
公益信託では、この信託管理人が重要な役割を担います。
特定の受益者を置かず、公益のためだけに財産が使われる点が、通常の信託と大きく異なります。
わかりやすく言えば、公益信託は「社会貢献専用のルール付き口座」をつくるようなものです。単にお金を渡すだけではなく、何のために、誰のために、どのような条件で使うのかを事前に設計できる。さらに、残余財産をどう扱うかまで決めておける。これが、単発の寄附にはない大きな特徴です。
■ なぜ今、この制度が必要なのか
社会課題は年々複雑になっています。教育支援、研究助成、地域文化の保存、環境保全、居場所づくり。どれも一度きりの支援では足りず、長く続く仕組みが求められる分野です。
内閣府も、新制度を通じて民間公益活動をより身近で活発に広げたいという考えを示しています。
一方で、これまでは選択肢が極端でした。寄附は始めやすい反面、使い道や継続性を細かく設計しにくい。逆に、公益財団法人のような法人設立は本格的ですが、体制づくりや継続運営の負担が重い。その間を埋める制度として、公益信託には大きな意味があります。想いを“気持ち”で終わらせず、“仕組み”として社会に残す。そこに、今の時代に合った価値があります。
■ 旧制度は、なぜ広がらなかったのか
公益信託そのものは新しい制度ではありません。もともとは1922年の「公益信託ニ関スル法律」に基づく仕組みでした。しかし、長く本格活用が広がらなかった背景には、制度上の使いにくさがありました。
内閣府の説明資料でも、旧制度は主務官庁の自由裁量による許可制であり、受託者、信託財産、信託事務、報酬などに事実上の制約があったと整理されています。
つまり、制度は存在していても、実務では活用しにくかったのです。担い手が限られ、財産の種類も広がりにくく、結果として金銭を使った助成型に偏りやすかった。社会課題が多様化する一方で、制度の器が時代に追いついていなかったともいえます。
■ 令和8年4月、何が変わったのか
今回の改正で最も大きいのは、使える担い手、使える財産、行える公益活動の幅が一気に広がったことです。しかも、認可・監督の仕組みも公益法人制度と共通の枠組みに整理され、制度全体の透明性が高まりました。
まず、担い手の幅が広がりました。
新制度では、信託会社に加えて、公益法人やNPO法人なども担い手になり得るようになりました。
これにより、現場を知る団体と組みながら、目的に合った公益信託を設計しやすくなりました。
次に、信託財産の幅が広がりました。
新制度では、金銭だけでなく、不動産や美術品、株式なども活用対象になり得る方向が示されています。従来は「現金を出して助成する」というイメージが強かった公益信託が、資産そのものを社会のために生かす制度へと広がったのです。
さらに、実施できる公益活動も広がりました。
奨学金や研究助成といった給付型の支援に加え、公益活動そのものを行う形でも活用できるようになりました。奨学金支給、研究助成、美術館運営、環境保全活動など、活用の幅は大きく広がっています。
そして、認可・監督の仕組みも大きく変わりました。
新しい公益信託制度は、公益法人制度と共通の透明性の高い枠組みで認可・監督されます。行政庁は内閣総理大臣または都道府県知事で、法律上も公益事務が適正に行われることを確保するための制度として位置づけられています。
■ どんな使い方ができるのか
この制度の良さは、理屈よりも活用場面を見るとよくわかります。
たとえば、「地元の若者を長く応援したい」という想いがある場合。毎年、一定の地域や分野の学生に奨学金を出す仕組みを設計し、それを継続的に運営してもらうことができます。単発の寄附ではなく、支援のルールそのものを残せるのが公益信託の強みです。奨学金支給は公式資料でも代表例として挙げられています。
また、「先代から受け継いだ土地や建物を、売却ではなく社会のために使いたい」というケースにも相性があります。不動産を地域活動や文化振興のために活かしたい、あるいは美術品や歴史資料を保存・公開につなげたい。こうした発想は、新制度で財産の種類が広がったからこそ、現実味を持つようになりました。
さらに、「会社の理念や創業者の想いを、事業とは別の形で社会に残したい」という場合にも使いやすい制度です。企業が続くかどうかに左右されにくい形で、地域貢献や教育支援の仕組みを残すことができます。契約だけでなく遺言による設定も可能なので、個人の資産承継と社会貢献を結びつける方法としても注目されています。
■ 税制面でも注目される理由
税制面でも、公益信託は重要です。
国税庁は、令和8年4月1日以後、租税特別措置法第40条の「公益法人等」の範囲に公益信託が追加されたことを案内しています。これにより、一定の要件を満たす場合には、公益信託への財産拠出について譲渡所得等の非課税特例の対象となり得ます。 (国税庁)
認可を受けた公益信託については、基本的に公益法人並みの税制優遇が受けられるよう整備が進められています。もっとも、税務上の扱いは資産の種類や設計内容によって論点が異なるため、不動産や株式などを活用する場合は、法律・税務の専門家と事前にしっかり整理しておくことが欠かせません。実務上の取扱いについても、今後さらに明確化が進んでいく見込みです。
■ 公益財団法人との違いは?
制度を検討する際には「公益財団法人を作るのと、どちらがよいのか」と考える方も多いはずです。両者は似ているようで、役割が違います。
公益財団法人は、自ら法人格を持ち、自前の組織として公益活動を行うための器です。公益財団法人を設立するには、まず一般財団法人を立ち上げ、その後に公益認定を受ける必要があります。
一方、公益信託は、法人を新たに作るのではなく、財産の使い方を設計して担い手に託す仕組みです。自前の組織を運営するよりも軽やかに始めやすい反面、自由に何でもできるわけではなく、信託目的と認可基準の中で運営されます。つまり、法人を持つか、仕組みを託すか。この違いで考えるとわかりやすいでしょう。
比較すると、次のように整理できます。
| 公益財団法人 | 公益信託 | |
|---|---|---|
| 仕組 | 法人格を持つ | 法人を新設せず活用できる |
| 設立 | 一般財団法人の設立+公益認定 | 信託の設計+認可 |
| 運営 | 理事・監事・評議員などの機関設計が必要 | 受託者と信託管理人を中心に運営 |
| 意向 | 自ら看板を持って継続的に活動したい | 想いや資産の使い道を設計して託したい |
なお、一般財団法人については、法務省の案内でも、設立にあたり300万円以上の財産拠出が必要であり、評議員、評議員会、理事、理事会、監事を置かなければならないとされています。公益財団法人を目指す場合は、こうした組織運営の前提も踏まえて検討する必要があります。 (法務省)
■ 制度を使う前に知っておきたいこと
公益信託は、ただ「公益のために使いたい」と思えば始められる制度ではありません。受託者には経理的基礎や技術的能力が求められ、信託管理人にも適切な監督能力が求められます。さらに、委託者や関係者への特別の利益供与は認められず、残余財産の帰属先も公益性のある形で定める必要があります。
だからこそ、実際に活用する際には、制度の良さだけでなく、何を目的に、どの財産を、誰に託し、どんな形で続けていくかを丁寧に設計することが大切です。信託実務、法律、税務の視点をそろえて考えることで、初めてこの制度は強い力を持ちます。
■ まとめ─「善意」で終わらせず、「続く仕組み」に変える
公益信託制度の本質は、とてもシンプルです。
想いある資産を、社会に届き続ける仕組みに変えること。
寄附ほど単発ではなく、法人設立ほど重くない。しかも、今回の改正によって、担い手も財産も活動の幅も広がり、以前よりずっと現実的な制度になりました。だからこそこれからは、「何か社会のために残したい」と考える人にとって、公益信託は特別な制度ではなく、具体的な選択肢の一つになっていくはずです。
相続や事業承継を考えたとき。
地域への恩返しを形にしたいと思ったとき。
企業の理念や創業者の想いを、次の世代へ残したいと考えたとき。
公益信託は、その想いを「残す」だけでなく、「社会に届く形で続ける」ための制度です。令和8年4月から始まったこの新しい制度は、これからの社会貢献のかたちを大きく変えていくかもしれません。
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