平成19年4月1日に医療法(第5次医療法改正)が改正され、同年月日以降に新たに設立した医療法人は、出資持分をもたない医療法人となりました。つまり、平成19年3月31日までに設立している医療法人には、出資持分があることになります。
出資持分とは、医療法人に出資した人が、その医療法人の資産に対し、出資額に応じて有する財産権をいいます。仮に、平成19年3月31日までに医療法人を設立した出資持分ありの医療法人が解散した場合、出資持分を持っている出資者に財産権が帰属しますが、一方で平成19年4月1日以降に医療法人を設立し、出資持分なしの医療法人が解散した場合は、財産権は戻らず、国のものとなります。
認定医療法人制度は、持分ありから持分なしへ移行促進策
認定医療法人制度は出資持分あり医療法人から、持分なし医療法人への移行促進策で、国は持分ありから持分なしへ移行を促進しています。しかし、医療法の改正から10年以上経った現在も「当分の間」持分ありのままでも良いとされており、自主的な判断で移行を検討できます。
出資持分あり医療法人における事業承継対策
出資持分あり医療法人における事業承継対策として一般的には下記の方法があります。
暦年贈与
毎年110万円までの出資持分贈与であれば非課税で後継者に移行可能です。一方で、毎年出資評価を行い超える場合は贈与税を納税する必要があります。
相続時精算課税制度
贈与者ごとに2500万円まで非課税(相続時に制度適用時の評価で課税)で出資持分贈与が可能です。一方で、2500万円を超過した金額については一律20パーセントの贈与税の課税や、相続時精算課税制度を1度選択した場合、暦年課税に戻すことが出来なくなります。
通常の持分なし医療法人への移行
出資者全員が出資金にかかる出資払戻及び残余財産分配にかかる請求権を放棄する方法です。法人の内部留保の状況によっては医療法人に贈与税が課されます。
メリットとして、
相続対策…出資金がなくなるため、相続財産の圧縮が可能となります。
事業承継…後継者への出資金を伴う贈与税や譲渡税(所得税)が発生せず、同族経営を維持することが可能です。法人に内部留保を残すことで、後継者に負担なく財産を承継させることも可能です。
法人地方税…均等割の負担が減少する可能性があります。
出資者払戻請求リスク…出資者からの払戻請求ができなくなるため、医療法人のリスクを回避できます。
納税資金…出資者や後継者などには課税されず、医療法人に対し課税されるため、個人の現預金の流出を防ぎます。
デメリットとして、
贈与税の負担…移行時に、医療法人に対し贈与税の負担(損金不算入)が生じます。
残余財産…医療法人の解散時に、残余財産がある場合、国等へ帰属します。出資金がなくなるため、設立時に出資した金額が返還されません。(基金拠出型医療法人の場合は基金額を返還可能)
交際費等の損金不算入…純資産の額が一定額以上となった場合、交際費が全額損金不算入となります。
寄附金の損金不算入…所得金額×1.25/100が損金不算入限度額となります。
特定医療法人・社会医療法人へ移行
公益性の高い医療法人へ移行します。持分なし医療法人と比較して移行するためには多くの要件が必要となります。
主な要件として、役員構成要件、診療報酬、特別利益の付与、差額ベッド、医療施設の規模、給与制限等があります。
上記の出資持分なしのメリットに加えて、移行時、法人に贈与税が課税されない優遇があります。
一方で上記の出資持分なしのデメリットに加えて、非同族経営となり、給与制限など設定されている要件が非常に厳しいことが挙げられます。
認定医療法人制度を利用して持分なし医療法人へ移行
平成29年10月1日から制度見直しとなり、法人の運営が適正であること等を要件として追加し、移行後6年間、当該要件を維持すれば、移行にかかる贈与税や相続税が猶予免除される制度となりました。
この改正により、改正前に厳しいといわれていた「役員数:理事6人、監事2人以上」、「役員の親族要件として全体の3分の1以下であること」、「医療計画の記載等の要件」が緩和され、制度利用のハードルが下がったといえます。
新たな認定医療法人制度の要件
- 社員総会の決議がある。
- 移行計画が有効で適正。
- 移行計画期間が3年以内。
- 法人関係者に特別の利益を供与していない。
- 役員報酬について不当に高額にならないよう定めている。
- 社会保険診療に係る収入等が全体の80%を超えている。
- 株式会社等に対して特別の利益を与える行為を行わないこと。
- 遊休財産額が事業費用の額を超えていない。
- 法令に違反する事実、帳簿書類に仮装隠蔽がない。
- 自費が社会保険診療報酬と同一の基準により計算されている。
- 事業収益が事業費用の150%以内である。
持分なし医療法人への移行は、相続税、贈与税に考慮した医療法人における事業承継対策として利用が可能です。
移行後は法人がどれだけ利益を計上しても、出資金に係る相続税については悩む必要がなくなります。 医療法人の状況によって、方向性を定めていくことがポイントとなります。
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