不動産購入と相続の登記のちがい
不動産を購入した場合、不動産登記をしなければ他者に対し、不動産の所有権を主張することができません(民法177条)。
しかし、相続で不動産を譲り受けた場合は、不動産登記をすることなく他者に所有権を主張することができます。
そのため、相続時に所有権登記をしなくても特に問題が生じないことを理由に、相続登記を怠るケースが多数あるようです。しかし、近年、政府は相続を原因とした不動産の所有権の移転についても不動産登記の義務化を検討しています。
なぜ義務化が検討されているのか?
政府が不動産登記の義務化を検討し始めたきっかけは東日本大震災です。特に、津波の影響で所有者不明の土地がたくさんできてしまったことが大きな要因です。
広がる所有者不明土地問題
津波被害に遭った土地の不動産登記を確認しても、相続を原因とした不動産登記が義務化されていないため、登記簿に記載されている所有者が何十年も前に亡くなっていて、誰に相続されたのかがわからないという事案が頻発したのです。
所有者不明の土地は、東日本大震災後の復興事業で用地買収の妨げとなりました。民間有識者の研究会の16年の推計では、所有者不明の土地は全国で約410万ヘクタールにも上り、40年には北海道本島に匹敵する約720万ヘクタールに広がる計算です。
6兆円の経済的損失!?
民間の有識者で組織された「所有者不明土地問題研究会」によると、対策をしないまま2040年になれば、 経済損失額は少なくとも累計約 6兆円(※)になるというデータが出ています。
※内訳について、算出可能なコスト・損失額を試算すると、2016年単年での経済的損失は約1,800億円/年。2040年までに所有者不明の土地面積が増えることを考慮に入れると、 2040年単年での経済的損失は約3,100億円/年となり、少なくとも累積で約6兆円に相当する額となります。
登記していない土地が多い理由とは
最後の登記から50年以上経つ土地は大都市で6.6%、中小都市などで26.6%(田畑で23.4%)あります。多くは登記簿上の名義人がすでに死亡している可能性があります。理由は相続登記に法的な義務も期限もないことにあります。手続きが煩雑で、自力で行うのが難しいことも要因です。司法書士に頼めば報酬を支払うことになり、登録免許税もかかります。長い年月が過ぎると、相続登記の申請の際に、故人の土地を誰が引き継ぐかを確定するための「遺産分割協議書」の添付が必要になりますが、すべての法定相続人の署名・押印が必要となります。
また、固定資産税対策で、意図的に相続登記をしていないケースも地方中心に多いといわれています。
相続登記をしない3つのデメリット
1 登記をしないと売却できない
不動産に関する権利は民法により登記していなければ第三者に対して主張できないためです(177条)。
2 権利関係が複雑になる可能性がある
相続登記をするには、遺産分割協議書が必要となります。長期間登記しなかった場合、遺産協議分割所を作成する事自体が困難になってしまいます。
3 差し押さえの可能性
相続人のなかに借金がある人がいて支払いが滞っている場合、債券者に不動産の相続持分を差し押さえられる可能性もあります。
義務化されるとどうなる?
登記をしていない場合、罰則を設ける案も出ています。一方で相続をしたからといって財産が増えるとは限らず、相続税や固定資産税に加えて登録免許税や司法書士に依頼した場合の報酬など、支出も増えてしまいます。
政府は2020年までに法律を改正する予定ですが、改正から施行にかけて相続登記の申請が殺到するおそれもあるため、今のうちから所有している不動産の相続登記をすることを検討しては如何でしょうか。
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