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「持株会社をつくれば安心」が通用しなくなる?国税庁、非上場株式の評価方法を抜本的に見直す方向へ

2026年8月20日、国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回会議を開催し、非上場株式の新しい評価方法について、具体的な方向性を示しました。

今回示された内容は、まだ正式に決定された制度ではありません。

しかし、現在広く使われている「類似業種比準方式」について、国税庁が「存置することは困難ではないか」と明記するなど、これまでの事業承継対策を大きく変える可能性のある内容となっています。

特に影響を受ける可能性があるのは、次のような企業です。

  • 持株会社(ホールディングス)を活用している
  • 子会社や孫会社に資産・利益を移している
  • 役員退職金などを利用した株価対策を予定している
  • オペレーティングリースを活用している
  • 無議決権株式や従業員持株会を導入している
  • 長年にわたり事業承継対策を行ってきたが、株式の移転が完了していない
  • 内部留保が大きく、安定して高い利益を上げている

今回、国税庁は何を問題視し、非上場会社の株価をどのように変えようとしているのでしょうか。

経営者の方にも分かりやすく解説します。


そもそも「非上場会社の株価」とは何か

上場会社の株式には、証券市場で日々売買される株価があります。

一方、中小・中堅企業をはじめとする非上場会社には、証券市場で取引される株価がありません。

そのため、オーナー経営者が子どもへ自社株を贈与したり、相続が発生したりした場合には、国税庁のルールに基づいて「この会社の株式はいくらなのか」を計算します。

この税務上の株価が高ければ、贈与税や相続税の負担も重くなります。

たとえば、創業者が保有する自社株の評価額が1億円であれば、1億円を基準として贈与税や相続税を計算します。

会社が成長し、利益や純資産が増えて自社株の評価額が5億円、10億円となれば、後継者が負担する税金も大きくなります。

その結果、

「会社は順調に成長しているのに、税金が高すぎて子どもへ株式を渡せない」

という問題が起こります。

そのため、多くのオーナー経営者は税理士、金融機関、コンサルティング会社などと相談しながら、何年、場合によっては10年以上かけて自社株の評価を抑え、後継者へ株式を移す対策を行ってきました。


国税庁は何を問題視しているのか

国税庁が問題視しているのは、現在のルールで計算した株価が、会社の持つ資産や収益力に比べて低くなりすぎているケースが多いことです。

国税庁が700社を対象に調査したところ、現在広く使われている「類似業種比準方式」による株価の中央値は、会社の純資産を基準に計算した株価の約26%でした。

簡単にいえば、会社が持つ資産から負債などを差し引いた価値が4億円あるのに、税務上の株価は1億円程度になるような大きな差が、多くの会社で生じているということです。

もちろん、非上場会社の株式は上場株式のように自由に売却できるわけではありません。

また、後継者は会社を引き継ぐと同時に、経営責任や借入金の個人保証なども背負う可能性があります。

そのため、会社の純資産と株価が一致しないこと自体が、直ちに不合理というわけではありません。

それでも国税庁は、会社の規模や組織のつくり方、一時的な利益の増減によって株価が大きく変わる現在の仕組みには、不公平や意図的な操作の余地があると考えています。


現在の中心的な評価方法が廃止される可能性

現在の非上場株式評価では、会社を大会社・中会社・小会社などに区分し、その規模に応じて評価方法や計算割合を変えています。

一般的に、規模の大きな会社ほど「類似業種比準方式」が使われる割合が高くなります。

類似業種比準方式とは、事業内容が似ている上場会社の株価、配当、利益、純資産などと比較して、非上場会社の株価を算出する方法です。

しかし、国税庁は8月20日の資料で、次の方向性を示しました。

  • 大会社・中会社・小会社という規模別の区分を廃止する
  • 会社の規模にかかわらず、広範な企業を共通の評価方法で評価する
  • 現在の類似業種比準方式を廃止することも検討する
  • 会社の資産と収益力を反映した新しい評価方法を導入する

資料には、類似業種比準方式について、

「理論的な根拠や実証的な裏付けがなく、他分野における企業価値評価では用いられない」

「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか」

と、かなり踏み込んだ表現が記載されています。

まだ廃止が決定したわけではありませんが、現在の中心的な評価方法が大幅に変更される可能性は、これまで以上に高まったと考えられます。


新しい有力案は「会社の純資産+過去数年間の収益力」

国税庁が新しい評価方法の有力案として示したのが「残余利益方式」です。

名称は難しく見えますが、基本的な考え方は比較的シンプルです。

会社の株価を、次の2つから計算します。

  1. 会社が帳簿上保有している純資産
  2. 会社が通常期待される水準を上回って稼ぐ利益

簡単に表すと、

「会社の帳簿上の純資産」
+または-
「過去数年間の収益力」

「会社の株価」

という考え方です。

現在の評価方法では、評価時点に近い1年間の利益や配当が株価へ大きく影響することがあります。

新しい案では、過去数年間の平均利益を使い、会社の継続的な収益力を株価へ反映させます。

会議では、利益を見る期間について「5年分がよいのではないか」という委員からの意見も示されています。

最終的な年数や計算方法は決まっていませんが、単年度の利益ではなく、複数年の平均的な利益を見る方向です。


すべての会社の株価が上がるわけではない

今回の見直しについて、「非上場会社の株価が、すべて純資産以上に引き上げられる」と考えるのは正確ではありません。

国税庁が示した残余利益方式では、会社の収益力によって評価が変わります。

利益率の高い会社

通常期待される利益を上回る収益を継続的に上げている会社は、その収益力が株価に加算されます。

そのため、簿価純資産を上回る株価になる可能性があります。

利益率の低い会社・赤字会社

利益率が低い会社や赤字会社では、収益力がマイナスとして反映されます。

そのため、簿価純資産を下回る株価になる可能性があります。

つまり、新しい方式は単純な増税だけを目的とするものではなく、

「会社が実際に保有している資産と、継続的に利益を生み出す力を株価へ反映する」

という考え方です。

ただし、内部留保が大きく、安定した利益を上げている中小・中堅企業では、現在より株価が高くなる可能性があります。


持株会社を使った株価対策は明確に見直しの対象に

今回、最も注目すべき内容の一つが、持株会社を利用した事業承継対策への対応です。

現在は、オーナーが事業会社の上に持株会社をつくり、持株会社が事業会社の株式を保有する形にすることがあります。

オーナー個人は、事業会社の株式ではなく、持株会社の株式を保有します。

現在の評価方法では、親会社単体の利益や資産をもとに株価を計算するため、親会社から子会社や孫会社へ利益・資産を移すことで、親会社の株価を抑えられる場合があります。

しかし、国税庁は8月20日の資料に「HD」と明記した図を掲載し、

「完全支配関係にあるグループ法人は、グループ全体として評価する」

という方向性を示しました。

今後は、親会社だけを見るのではなく、子会社や孫会社の資産・利益も親会社の株価へ反映させる可能性があります。

つまり、

「子会社へ資産を移したから、親会社の株価が下がる」

「持株会社をつくったから、自社株対策は完了している」

という考え方が、今後は通用しにくくなる可能性があります。

ただし、持株会社そのものが無意味になるわけではありません。

持株会社には、次のような税務以外の役割があります。

  • グループ全体の経営管理
  • 複数事業の整理
  • 事業ごとのリスク分離
  • M&Aや新規事業の推進
  • 後継者への経営権の集約
  • 事業会社ごとの売却や再編

今回見直されようとしているのは、主として「持株会社を利用して相続・贈与時の株価を下げる効果」です。


役員退職金やオペレーティングリースも対象に

国税庁は、一時的に会社の利益を下げて株価を圧縮する方法についても、具体的な見直し案を示しました。

資料で明示されたのは、次のような対策です。

  • オペレーティングリースの活用
  • 多額の役員報酬
  • 一時的な役員退職金
  • 非経常的な損失の計上

これらの対策によって一時的に利益を減らしても、その損失をそのまま株価計算へ反映させず、通常の状態で会社が稼ぐ「正常利益」に修正したうえで評価する方向です。

たとえば、株式を贈与する直前に多額の役員退職金を支給し、その年の利益を大きく減らしても、新しい方法では過去数年間の利益や通常の収益力が見られます。

そのため、一時的な利益圧縮によって株価を下げる効果は、現在より小さくなる可能性があります。

もちろん、役員退職金やオペレーティングリース自体が否定されるわけではありません。

役員退職金には経営者の功績に報いる目的があり、オペレーティングリースにも投資や資産運用としての役割があります。

ただし、「自社株評価を下げること」を主な目的として利用する場合、その効果は今後見直される可能性があります。


無議決権株式や配当還元方式も厳格化へ

現在の制度では、一定の少数株主が取得する株式について、会社から受け取る配当を基準に株価を計算する「配当還元方式」が適用される場合があります。

この方法は、通常の評価方法より株価が大幅に低くなるケースがあります。

国税庁によると、株主構成や議決権割合を操作することで、企業価値の総額から最大約98%も評価額を圧縮した事例があるとのことです。

そのため、国税庁は次の対策を見直す方向を示しています。

  • 無議決権株式を使った世代間の株式移転
  • 一時的に第三者へ株式を譲渡する方法
  • 株主構成や議決権割合を操作する方法
  • 従業員持株会が保有する固定価格株式
  • 配当還元方式を適用できる株主の範囲

配当還元方式自体は、特別な例外措置として残す方向が示されています。

ただし、今後は「配当を受け取る以外に経済的な利益を期待できない株主」に対象を限定するなど、適用条件が厳しくなる可能性があります。


上場企業の創業家や富裕層にも影響する可能性

今回の見直しは、上場株式そのものの市場価格を変更する話ではありません。

ただし、上場企業の創業家や大株主が、非上場の持株会社や資産管理会社を通じて上場株式を保有している場合には、影響を受ける可能性があります。

たとえば、個人が直接100億円分の上場株式を持つのではなく、非上場の資産管理会社に上場株式を保有させ、その資産管理会社の株式を次世代へ移す方法です。

今後、資産管理会社や持株会社について、傘下の会社や保有資産を含むグループ全体の価値がより強く反映されるようになれば、これまでの承継計画を見直す必要が生じます。

したがって、今回の検討は一般的な中小企業だけの問題ではありません。

  • 成長中の未上場企業
  • 歴史が長く、内部留保の大きい中堅企業
  • 複数の事業会社を傘下に持つ企業グループ
  • 上場企業の創業家・大株主
  • 不動産や有価証券を多く持つ資産管理会社

など、幅広いオーナーに関係します。


これまでの対策は、すべて無意味になるのか

今回の資料を見ても、「これまでの事業承継対策が、すべて無意味になる」とまではいえません。

すでに完了した贈与や承継について、新しいルールで一律にやり直すことが示されたわけではありません。

また、持株会社化、種類株式、役員退職金などには、それぞれ税務以外の目的や効果があります。

一方、次のような会社は、これまでの計画を早急に点検する必要があります。

  • 持株会社は設立したが、創業者が現在も大部分の株式を持っている
  • 毎年少しずつ贈与しており、株式承継が完了していない
  • 株価を下げる組織再編は行ったが、実際の株式移転はこれからである
  • 役員退職金やオペレーティングリースを前提に承継計画を立てている
  • 無議決権株式や従業員持株会を活用している
  • 子会社や孫会社へ資産・利益を移している
  • 数年前に作成した事業承継計画を、その後見直していない

重要なのは、対策を「実施したか」だけではありません。

後継者への株式移転が、実際にどこまで完了しているかです。

10年以上かけて持株会社化や株価対策を進めていても、創業者が株式を持ったままであれば、将来その株式を贈与・相続する際に、新しい評価方法の影響を受ける可能性があります。


新しい評価方法はいつから始まるのか

8月20日の会議では、新しい評価方法や適用開始日が正式に決定されたわけではありません。

今後、有識者会議で次のような論点が引き続き検討されます。

  • 残余利益方式の具体的な計算方法
  • 過去何年分の利益を見るのか
  • 一時的な損益をどのように除外するのか
  • グループ会社をどこまで一体として評価するのか
  • 資産管理会社など、特別な会社の判定基準
  • 配当還元方式を適用できる株主の範囲
  • 従業員持株会やストックオプションへの影響
  • 中小企業の事業承継を阻害しないための措置

専門家の間では、早ければ2028年1月から新しい評価方法が適用される可能性が指摘されています。

ただし、8月20日の国税庁資料では、適用開始日は明記されていません。

したがって、現時点では「2028年1月に決定した」と断定することはできません。

今後の有識者会議、財産評価基本通達の改正、事業承継税制の見直しなどを継続して確認する必要があります。


経営者が今すぐ確認すべき5つのこと

制度が正式決定していない段階で、慌てて株式を贈与したり、新たな持株会社を設立したりするのは危険です。

今必要なのは、駆け込み対策ではなく、自社の現在地を正確に把握することです。

1.現在の自社株評価額はいくらか

数年前に計算した株価ではなく、直近の決算をもとに現在の評価額を確認します。

2.創業者や先代に何%の株式が残っているか

対策を進めていても、株式が実際に移っていなければ、新しい評価方法の影響を受ける可能性があります。

3.持株会社や子会社に、どのような資産と利益があるか

親会社だけでなく、子会社・孫会社を含むグループ全体の資産、利益、株主構成を整理する必要があります。

4.これまでの対策は、何を前提にしていたか

持株会社化、役員退職金、オペレーティングリース、配当調整、種類株式など、どの仕組みによって株価を抑える計画だったのかを確認します。

5.株価が上がった場合でも承継できるか

贈与税・相続税の納税資金、事業承継税制、親族内承継、役員・従業員への承継、M&Aなど、複数の選択肢を比較する必要があります。

重要なのは、税金を下げることだけではありません。

後継者が会社を安定して経営できること、納税のために会社や株式を手放さなくて済むこと、家族間の争いを防ぐことまで含めて、事業承継計画を再設計する必要があります。


今回の見直しは「対策の終わり」ではなく「再点検の始まり」

8月20日に国税庁が示した方向性を一言で表すと、

「会社の形や一時的な決算対策ではなく、グループ全体が持つ資産と、数年間の本当の収益力をもとに株価を評価する」

というものです。

これは、現在の非上場株式評価を大きく変える可能性があります。

一方、すべての会社の株価が上がると決まったわけでも、過去の対策がすべて無効になると決まったわけでもありません。

経営者が今すべきことは、いたずらに不安になることでも、慌てて対策を実行することでもありません。

まずは、

  • 現在の自社株評価
  • 株主構成と議決権割合
  • 後継者への株式移転状況
  • 持株会社・子会社を含むグループ構成
  • これまで行ってきた事業承継対策
  • 今後の納税資金と承継方法

を整理し、新しい評価方法が導入された場合にどのような影響があるのかを確認することが重要です。

特に、長年にわたり事業承継対策を行ってきた企業ほど、「すでに対策済みだから大丈夫」と思い込まず、一度点検する必要があります。

AUUでは、今回の国税庁の検討状況を引き続き確認し、今後示される具体的な計算方法や適用時期についても、経営者の皆様に分かりやすくお伝えしていきます。

また、現在の自社株評価、持株会社化を含むこれまでの事業承継対策、新しい評価方法が導入された場合の影響などについて確認を希望される経営者の方には、事業承継・相続・税務に詳しい専門家と連携して対応いたします。

事業承継・自社株対策の再点検をご希望の方は、AUUまでお気軽にお問合せください。

※本記事は2026年8月21日時点で公表されている情報をもとに作成しています。非上場株式の新しい評価方法、具体的な計算方法および適用時期は、現時点では正式に決定していません。具体的な贈与、株式移転、組織再編などを行う場合は、税理士・弁護士等の専門家へご相談ください。

【参考資料】

国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)資料」
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/pdf/05shiryo_kabukaigi.pdf

国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)資料」
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260420/pdf/01shiryo_kabukaigi.pdf

国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第4回)資料」
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260703/pdf/04shiryo_kabukaigi.pdf

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